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  3. 大須観音 貫主・岡部 快圓さん・由緒ある大須観音の第55代貫主

大須商店街の活気を取り戻そう!
互いを思う愛とアイデアで乗り越えた地域の危機

終戦後は、空襲で家を失った大須の人々が暮らせるように境内にバラックを建て、大須観音と大須の町は力を合わせ復興にあたってきたという。ところが、大須観音が本堂や仁王門を再建し、明治以降途絶えていた祭礼を復活させるなど着実に復興を遂げる一方、大須商店街は建物こそ再建されたものの、往時の活気を失い衰退の一途をたどっていた。そこから、どのようにして現在のような賑わいを取り戻したのだろうか。

大須商店街の仁王門通りを飾るフラッグには、大須観音の仁王門に奉安されている仁王様のりりしい横顔が描かれている。

―― 戦後、復興して活気を取り戻すまで、大須観音と商店街はどのように関わってきたのですか?

岡部さん「境内の復興を終えた頃、私は大学を卒業して『甚目寺観音』(あま市にある『尾張四観音』の一つである寺院)にいたんです。それで、その頃は私の父が大須観音の貫主をつとめていたんですが、私もしょっちゅう大須に足を運んでいました。当時の大須商店街は活気がなく、寂れた商店街そのものでした。名古屋には名古屋駅前と栄と大須に大きな商店街があります。ところが、戦後の区画整理で大須と栄が分断されて、人の流れが大須まで来なくなってしまったんですね。名古屋駅前は交通の便がいいので自然に人が来る、栄も戦後に周囲が発展して栄えていた。しかし、大須はもともと寺院の周りにできた門前町で、昔は自然に人が集まって良かったんですが、近代的な発展には取り残されてしまったんです」

―― 今の賑わいからは想像もできません。岡部さんはほかのお寺にいながら、地元の商店街のことも気にかけていたんですね。

岡部さん「できるだけ大須を訪れて、商店街を元気にするにはどうしたらいいかと、とにかく商店街の人たちとたくさん会って、いろんな話をしました。当時、私は大学を卒業したばかりだから、22歳かな。多くの人の話を聞いて、アイデアを出し合いました。それで、昔、名古屋一の盛り場と言われるほど栄えていた頃に、大須で行われていた大道芸をもう一度再現しよう、ということになったんです。昔の大道芸、軽業や演奏や、バナナのたたき売り、お化け屋敷やのぞきからくりとかね。でも、それだけでは今どきじゃない。盛り上げるためには、世界の大道芸を集めよう、となりましてね。中国ゴマとかジャグリング、パントマイムとか、世界中の大道芸を招いて『大道町人祭』を始めたんです。当時、『名古屋まつり』が有名でしたが、これは“見る祭り”だったんです。大須の大同町人祭は市民による“参加する祭り”ですから、全国から人が集まって、盛り上がりましたね。昔、大須に遊郭があったことから、花魁道中もあって、大変華やかで賑わいます。去年と一昨年はコロナでできなかったんですが、今でも毎年開催されています」

―― 市民が自分たちの力で作り上げたお祭りが成功したのですから、商店街の雰囲気も活気づいたのでしょうね。

岡部さん「今度は、夏祭りをどうする?という話になりましてね。昔は盆踊りをしていましたが、若手が『サンバをやろう!』と。それで、初めは『お寺の境内でやろう!』と言い出したんですが、それだけはやめてほしい、とね(笑)。境内で、派手な衣装の人たちが肌もあらわに踊っていたら、参拝に来たおじいさんやおばあさんがびっくりしてしまいますから(笑)。それで、祭が終わったらきれいに掃除するという条件で、商店街でパレードをすることになったんです。これも大成功で、夏祭りにも毎年多くの人が集まります」

―― 若い人たちのアイデアをきちんと取り入れて新しいことにも積極的に取り組もうという姿勢は素晴らしいと思います。そういう柔軟さが、大須が復活した要因としてあるのでしょうね。

岡部さん「そうですね。お互いによく話を聞くということが大切なんですね。大須ではその後、地元の名士が集まって『賢人会議』を立ち上げたんです。今はないのですが、例えば万松寺の住職や『大須ういろ』の会長、アメ横の社長などがメンバーでした。「夏祭り」や「大道町人祭」などの実行委員長は1回限りで毎回変えていました。多くの人が委員長をつとめることで、“長”となれる人をたくさん作るためですね。だから、大須には人の上に立ったり責任を取ったりということをできる人がたくさんいるんです。これはね、よく考えた仕組みでしたね」

―― それも素晴らしいアイデアですね。最近は各地の商店会や町内会などの組織で、上に立つ人がいなくて解散するケースが増えていると聞きます。大須の成功例は、多くの組織の参考になるんじゃないでしょうか。

岡部さん「今は、全国でうまくいかない商店街が多いんです。そういうところから、どうやって復活したんですかと大須に視察に来る人もいます。私は、地域が活気を取り戻すにはお互いに地元を愛する気持ちが大切だと思っています。自分たちのことだけじゃなく、地元のために、ともに力を合わせようというね。若い人の意見を聞いたり、人の話に耳を傾けたりすることも大切です。大須の近隣では名古屋駅前や栄の商店街もあって、ともに栄えています。とくに栄とはお互いに協力し合っていて、その結果、どちらも成功しているんですね」

岡部さんご自身も、貫主となる前から地元の人の話に耳を傾け、相談に乗ってこられた。岡部さんは大須商店街の成功を「地域の人たちが本当に良く頑張ったから」だとおっしゃるが、そこには、常に地元を思い、地元に寄り添う大須観音の存在があり、心の支えになっていたのは間違いないだろう。

商店街に掲示された、2022年大須大道町人祭のポスター。コロナ禍で2年続けて中止となり、3年ぶりに開催される祭を待ちわびる人々の思いが伝わってくる。
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