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  3. 現代浮世絵師・中根 幹夫さん・世相を描写する現代浮世絵師

浮世絵を描く時間は、自らの癒しの時間。
報道写真のように、絵の中に思いを乗せる。

『忘れない過去』
『焼く鳥は矢場町』
『願う世界の平和 日本の平和』
『熱田参り福多かれ』

―― 浮世絵とは、どのように出会ったのでしょうか。

中根さん「イラストレーターとして数十年のキャリアがあるわけですから、あらゆるタッチで絵を描くことができます。手がけたイラストが中学の教科書に載ったり、CMに使われて嬉しい経験もしました。ジブリ作品で有名な高畑勲さんともお仕事をご一緒させていただきました。しかしながら、他者から依頼を受けて描く商業デザインの仕事には満足しきれないモヤモヤがずっとあったんです。
スピード感を重視して目の前の案件をどんどんさばいていくハードな仕事のやり方にもさすがに疲れ、老後の癒しになる楽しみを何か作ろうとした50代のはじめ頃に浮世絵と出会いました。
『せっかく出会ったのでやってみるか』くらいの軽い気持ちで、自己流で浮世絵を描き始めたんです。」

―― (初期の作品を拝見しながら)浮世絵を始められたばっかりなのに、ここまで緻密な作品が描けたんですね。

中根さん「やってみて手応えというか、やれそうだなぁという気持ちはありましたが、振り返ってみるとこの頃の絵は全然ダメですね。探求や模索をしている途中の絵です。
ただ、仕事でイラストを描くのとは違って、相手のことを考えずに自分の好きなように描ける趣味の浮世絵はとにかく楽しく没頭できたんです。自己満足ですけどね(笑)。
『名古屋百景』をコンセプトに、名古屋にできた新しい施設や時事ネタを絵の中に入れるのも楽しくてしかたがありませんでした。背景にオープンしたナディアパークを入れたり、名古屋市を流れる堀川にシャチが迷い込んだニュースが話題になったときにはその様子を描いたり。浮世絵を土台に、伝えたいことをどんどん盛り込んでいきました。」

―― 作品を間近で拝見すると、本当にさまざまなものが描かれているんですね。

中根さん「浮世絵って、当時は“報道写真”の役割を担っていたんですよ。世の中の出来事を絵にすることで、伝えたい気持ちを広めていけるのが浮世絵の醍醐味です。」

―― 浮世絵には版画のイメージがある気もしますが、絵筆を使った肉筆画にされている理由も教えてください。

中根さん「東京の神田には、木板を彫って多色摺木版画の「浮世絵」を刷る工房があるんですが、1色で何十万円もかかってしまうんです。僕のようにカラーの作品だと軽く数百万円を超えてしまうので、肉筆で描いています。肉筆画は溝引き定規とガラス棒を使うことで、あらゆる曲線が描けます。
肉筆で描いた作品には、世界にたったひとつしかないという版画にはない魅力もあります。独特の風合いを出すために、かすれの表現なんかも加工して再現するんです。」

―― 趣味で始められた浮世絵が、世の注目を集めるきっかけになった出来事はありますか?

中根さん「たしか、小さなギャラリーで展覧会をしたのがきっかけでメディアから取材依頼が来るようになりました。
ある時、軽い気持ちで取材を受けたテレビ番組が放映されるやいなや事務所の電話が鳴り響いて、仕事をストップせざるをえない状況になったんです。その番組は編集によって僕が意図しない伝わり方になってしまったので、その後はテレビ取材はお断りして新聞の取材だけを受けるようになりました。
『浮世絵を売ってほしい』という依頼もけっこうありましたが、コピーを進呈することはあっても売ることは一切していないですね。」

―― ロシアのエルミタージュ美術館に展示されたいきさつもぜひ教えてください。

中根さん「通っていた飲み屋で意気投合した方が偶然、豊田市にあるバレエ団の理事長だったんですよ。そこからロシアとのつながりが生まれ、エルミタージュ美術館に招かれることになりました。まさか世界3大美術館から声がかかるとは思っておらず、びっくりしました。モスクワ大学で美術の道を志す若者とも交流しましたが、彼らは本当に絵が上手で私の力ではとても太刀打ちできないと感じました。浮世絵で招かれてよかったです(笑)。」

ロシアにあるエルミタージュ美術館。
エルミタージュ美術館の美術館長と劇場長に浮世絵原画を贈呈し、たいへん喜ばれた。

―― その他に体験された活動で思い出深いものはありますか?

中根さん「ラグビーのワールドカップが開催された2019年には、豊田市駅西にある複合商業施設『T-FACE』で展覧会が開催できましたし、長久手市から依頼を受けて『長久手ふるさとかるた』の絵柄も提供しました。読み句をもとに、一枚一枚絵柄を考えて描いていきました。
デザイン事務所時代の後輩たちのおかげで自らの作品集が出版できたのも忘れられない思い出ですね。刷り上がった数百部の冊子が自宅に届いた時はあまりの量にびっくりしましたが、もうわずかしか残っていません。」

平成11年に長久手市商工会が募集した詠み句を長久手市観光交流協会が引き継ぎ、約20年の歳月をかけて完成した「長久手ふるさとかるた」。

―― 2023年の夏からも展覧会をされるんですよね?

中根さん「7/25〜8/13の堀川ギャラリー展覧会を皮切りに、名古屋近郊でいくつかの展覧会を予定しています。
8/23〜8/31はメニコン本社の隣にあるギャラリーMenio、9/30〜10/28は伏見地下街ギャラリーで展示会を開催いたします。」(※2023年7月取材)

世界中が注目した「ラグビーワールドカップ2019」。愛知県の会場となった豊田市の複合商業施設『T-FACE』で展覧会が開催された。
名古屋市中区にある『ギャラリーMenio』では、数々の名言を筆に託し、ジョークやウィットを盛り込みながら、独自の描写で語りかける中根ワールドをお楽しみいただけた。
伏見地下街の壁面ウィンドウアートでも中根さんの作品が並ぶ。今の世相や風俗を描いた現代浮世絵が多くの方の目に触れるだろう。
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