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幾重にも重なる透過光が綾なす彩り
―ガラスと美濃和紙のマリアージュ―

ステンドグラス作家

牧野 克己さん

1942年8月8日生まれ 岐阜県美濃加茂市出身
60歳定年を待たず、大手電機メーカーを早期退職してステンドグラス作家へ転身。牧野氏が考案した、色鮮やかなガラスの組み合わせと、美濃和紙を生かしたステンドグラス作品は、見るものの心を和ませる。

ヨーロッパで「神」を象徴してきたステンドグラスの威光は、
日本人作家の手で「美濃和紙」と出会い、和らぎを帯びる

ステンドグラスと聞いて思い浮かべるのは、ヨーロッパの大聖堂、クラシックな洋館の窓、瀟洒なランプ、いずれも華やかで艶やかな輝きを放つ作品たちである。
ところが、ステンドグラス作家:牧野克己さん(77歳)が手がける作品は、ひと味もふた味も違う、オリジナリティーあふれる佇まいをしている。テーマとして選んでいる題材だけではなく、光彩そのものが、柔らかい「和」の趣きや情緒をまとっているのだ。

―― 「洋」と「和」のマリアージュともいうべき、和紙を用いたシリーズは、牧野さんのステンドグラスを代表する作品群とのこと。ステンドグラスの紅葉が散りばめられた『日本の四季シリーズ』の行燈タイプなどは、実に象徴的です(作品展の全景写真参照)。

『穏やかがいい-Ⅰ』2017-10
『穏やかがいい-Ⅱ』2017-10

牧野さん「今は愛知県の稲沢市に住んでいますが、もともとは岐阜県美濃加茂市の出身なんです。ステンドグラスをつくりはじめて20年以上になりますが、最近は、故郷の美濃和紙を生かしたステンドグラス作品をライフワークとして手掛けています。
和紙をガラスとガラスの間に挟み込むことで、私たち日本人が親しんできた障子越しの“柔らかな透過光”を表現しました。

『日本の四季』の行燈タイプは、行燈の内側と外側に、胴のテープ(コパーテープ)を巻いたガラス片の紅葉の葉を貼ることで奥行きをつくって立体感を出すとともに、和紙越しに透ける内側のステンドグラスの柔らかな色と表側に重ねたステンドグラスの鮮やかな色といったように、色にも強弱を持たせています 」

2015年に岐阜県博物館で1カ月にわたって開催された牧野作品『ステンドグラス・美濃和紙の光彩コラボ』の展示全景。床面の鏡面仕上げを長良川の水面に見立てて、行燈タイプのステンドグラス作品を対岸に配置した様は、どこか鵜飼いの篝火を思わせる。この模様は、NHKニュースでも取りあげられた。

―― 『穏やかがいいⅠ』(2017-10)は、障子窓を開けて見える、のどかで雄大な景色、観る者を田舎の日本家屋に招き入れてくれるような作品ですね。背後からライトが当たっているようですが、一枚に見える空の部分も、青いガラスに濃淡がありますね。

牧野さん「はい、LEDライトの配置を工夫したり、そのライトをアルミシートでところどころ包むことで明度差を出し、透過光の強弱を変化させたりすることで、空の濃淡を出しています」

単純なオンオフではない、あえてつくり出した光のムラが、景色に情緒を生み出していたのだ。ステンドグラスでは、グラデーションのついたガラスを用いることもあるが、あらかじめ着色されたガラス片をコパーテープでつないで作品をつくりあげるため、絵画さながらの色彩豊かで連続的な色の変化を表現するのは難しい。繊細で滑らかな色の移ろいを自在にしたのが、牧野さんが編み出した、ステンドグラスを重ねて光彩の変化を出し、さらに作品の背後の照明光を調節する新手法だ。

実は、ヨーロッパのステンドグラスは、15世紀頃から絵画の写実主義の影響を受け、絵を描くキャンバスかのように不透明なガラスが用いられるようになる。16世紀後半にエナメル塗料によるガラスの着色が多用されるようになると、ステンドグラスはますます透過光の魅力を失い、迷走。いったんは衰退期を迎えてしまう。

ところが19世紀に入り、ガラスの質が向上すると、再びステンドグラスは息を吹き返す。19世紀後半に現れた宝石商ティファニー家の2代目によって、ガラス片にコパーテープを巻き、ガラスとガラスをハンダ付けで繋げる、いわゆるティファニーテクニックが編み出されると、これまでは平面のみでの表現だったステンドグラスが、ランプなどの立体の造形物として製作されるようになる。

このティファニーテクニックを、さらに立体的に発展させたのが牧野作品である。牧野さんは、自身の作品を“欧州生まれの日本育ち”と、わが子のように表現する。

――『日本の四季 もみじ』も一枚いちまい丁寧に紅葉のかたちにカッティングしたガラス片からなるランプスタンドですが、これぞ日本の美といった幽玄な世界観の作品ですね。

牧野さん「実は、このランプでは単にガラス片同士を平面的に接ぎ合わせていくだけでなく、自然の紅葉の枝ぶりのように葉を幾枚も重ねることで、色の濃淡、光の強弱を作り出しています。しかも、ぐるり360度で、日本の四季、春夏秋冬を再現しています。季節に合わせて傘を回転させることで趣きを変えて、室内でも季節の移ろいを一年中楽しんでいただけるようになっているんです。

ステンドグラスのランプでは、通常、金属の台座やスタンド部分は既製品の彫金されたものを用いることが多いのですが、私はそこから手がけることも多く、『日本の四季 もみじ』の台座はあえて天然木の風合いを生かしたものになっています」

カープの美しい台座の渓谷にはらりと落ちた紅葉の葉が、とても風流な味わい。しかも、自然の風景を切り取ったがごとく半永久的に保たれていくのも、ステンドグラスの魅力である。風の音、沢の音、小枝の葉が揺れ擦れ合う音が聞こえてきそうではないか。

日本の四季の移ろいが凝縮された、物語性のある作品『日本の四季 もみじ』
左:芽生えSprout 右:夜明けのお話しStory of dawn
左:想いでの港A harbor at the heart 右:支えのお話しSupport story

墨画にガラスの彩りがキラリと主張するコラボも牧野作品を代表するシリーズである。日本の家によく似合う、それでいてとてもモダンな作風のナイトライトだ。

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