日頃よく行われる視力検査で測る視力というのは静止視力のことであり、非常によい条件の下での、非日常的な最小識別閾値（それが離れているかどうかを見分ける最も小さな量、たとえば視力1.0とは5メートル離れた距離から7.5ミリメートルのランドルト環の1.5ミリメートルの切れ目を識別できることを言います）であるのに対して、動体視力というのは動くものの見え方ですから、日常的な見え方の一つであると考えられます。動体視力は被験者に対して横方向に動く（眼からの距離は変わらない）ものを見る視力を表すDVA（dynamic visual acuity）と、被験者に対して前後方向に動く（眼との距離が変わる）ものを見る視力を表すKVA（kinetic visual acuity）に分けられます（dynamicもkineticも“動的”という意味で定義上の使い分け）が、わが国でいう動体視力とはKVAのことであり、DVAは眼科領域ではほとんど測定されていません。
さて、動体視力と静止視力には高い相関があると言われています。つまり、静止視力がよいほど動体視力もよいことになりますが、動体視力の測り方によっては近視や遠視ほど乱視の影響は大きくないようです。スポーツ選手、特にテニス選手は動体視力が良いという調査報告もあるようです。動体視力の測定は、眼精疲労検査や運転免許試験などの交通眼科領域での視覚適性検査、視機能検査として使われることがあります。

Aは先天的なもので、訓練によってよくすることはできないと言われてきました。その理由は動体視力がもともとの静止視力、年齢、屈折度数、乱視によるものであり、訓練ではそれを根本的に変えることはできないからです。
一方、DVAは眼球運動の訓練、反応速度の訓練によりよくすることが可能と言われ、そのような機器も開発されています。
KVAについても近年、短波長の可視光線を吸収することにより散乱光を減少させるメガネを使用することによりよくなることが知られており、アメリカでその原理を応用したスポーツ用のコンタクトレンズが開発されたようです。
また、レーシックやICLなど屈折矯正手術の出現により、近視や遠視、乱視をなくすことが可能になってきており、これらの方法を用いることによってKVAを向上させることができる可能性が出てきたと言えるでしょう。